5. What is to be learned?

この章は、「学ぶべきことは何か?」という問いに対して3つの側面から検討する。
@ 社会的に求められている学習の結果
A 言語熟達度の社会認知的構成概念(習得されるべきスキル)
B 教育課程の目標設定(学習の内容)

5.1 The desired outcomes of learning
言語学習の際には一般的に、習得した言語によって有益なコミュニケーション能力を身につけることが主な目標の一つであると言われている。
しかし、社会構築主義の観点では目標は学習者の素質、態度などの移り変わりのなかで、生活の一部として達成されることがもっとも望ましいと考えられている。
したがって、もっとも明確な学習の結果は、学習者が生涯学習を継続できるような有益な素質とライフスキルを身につけることである。
社会構築主義的アプローチの問題点は、学習と個人的な発達が混ざり合ってしまい、同じ過程から生まれるということである。つまり、それらのスキルは明確な指導よりも、個人の発達によって現れるのである。
言語はこれの最も明確な例の一つである。言語習得において成功する学習者は、ある程度のレベルまで達した習得言語によって自分自身に対する新たな面を認識し、また、社会との関連性や自身の行動について意識することができる。
UK National Curriculum handbookを始めとする高いレベルの達成を目標にしているものは、理想主義的・人本主義的な記述を目標に設定しがちである。Harlen (2009:250) は、これらの美辞麗句と実際にテストで評価されているものを「奇妙なコントラスト」と指摘している。事実、この理想との対比は、テストを作成する段階での焦点に大きく影響を与えるものである。
James and Brownは、ARGの観点から”Attainment””Understanding””Cognitive and creative””Using””Higher-order learning””Dispositions””Membership, inclusion, self-worth”7つを学習の結果として提示した。しかし、これらのうち学習の内容を順当に扱っているものは最初の2つのみで、残りの5つは個人の発達に関連する結果である。これよると、学習を成功させるためには、優れた学習者になるのと同じくらい特定の内容をマスターする必要があるという。
 
5.1.2 Learning and personal development
社会構築主義の観点から考えると、学習の結果について大切なことは、内容のマスターよりも学習者に変化と新たなライフスキルを与えることである。
Bereiter and Scardamalia (no date) は、学習の習得、批判的思考、コミュニケーション能力、創造性などの高次あるいは21世紀のスキルの構成要素を批判的に評価することで、個人の発達としての学習観を支持している。批判的思考に関して、彼らは「21世紀で求められている考えることに優れている人になる条件を満たすには、世界中の教育システムに人間の発展問題よりもスキル習得問題として扱われることである」と述べている。
ここで使用されている「スキル」という用語については第一言語習得と第二言語習得のコンテクストで意味合いが異なるため、注意が必要である。
第二言語習得における「スキル」は、社会において価値をもつ能力とみなされ、成功した学習によって現れる結果である、高次の能力として扱われる。一方、第一言語習得では、スペリングができるなどの初歩的な機械的な操作における低い能力として扱われている。
これらの違いの原因は明らかである。ほとんどの学習者のL1では、システムとしての言語はすでに効果的に習得されているため、すべての談話は潜在的に利用することができ、書かれたテキストなどの低いレベルの仕組みに焦点を当てることは、高いレベルのものを無視することになる。したがって、基本的な音とシンボルの関係などを理解する「スキル」は、高いレベルの仕組みをベースとした上に成り立つのである。
 
5.2 The nature of language proficiency: Construct definition
「語学力」を教えたり、測ったり、社会への重要性を正当化する前に、それが意味することに関して同意を図る必要がある。つまり、言語を知ることに対してなにを必要とするのかなどの理論またはモデルなどの特定の構成概念を定義しなければならない
構成概念を定義することは、カリキュラムプランナー、教師、評価専門家などが合意を求めるべきである非常に重要な過程である。さらに、教育の目的が社会において価値のあるスキルを発展させるためであることを踏まえると、その定義には社会全体を加えることが必要不可欠になってくる。これらの定義がしっかりとなされていないと、それぞれの目的と結果を一致させることが難しくなる。
しかし、これほど明確に構成概念の定義をする必要性が認識されているにもかかわらず、たいていの問題の原因はこの構成概念の定義の甘さにみられる。
一番理想的な評価の発展方法は、すべてのステークホルダーが構成概念の定義の際に関わることである。しかし、Cambridge Englishのような国際的な試験を行う機関の場合、構成概念の定義は評価の専門家のみで行われる。なぜならば、試験を採用するには実施する言語能力の構成概念を採用する必要があるからである。
この場合には、試験を実施する当事者が構成概念について理解していることがとても重要になる。受験者にとって必要であれば適宜教材や教授法を変えるなどの工夫を凝らすことによって、良い波及効果が得られる。
様々な熟達度の学習者の能力をサポートし、発展させるような構成概念の定義をするにはCEFRよりもより詳細な定義が必要とされる。
 
  Figure 5.1はリーディングにおける形式のモデルの具体的な構成概念の定義の例を表している。
(図は著作権により掲載不可)
  このモデルは関連する理論に基づき、観察されたパフォーマンスのデータのコーパスに支えられている。これは、認知がどのようにリーディングに従事しているかという記述である。
Figure 5.1は、テストのタスクがどのように熟達度の尺度に位置され、学習者のタスクにおけるパフォーマンスをその尺度に関連させて理解することができることを証明している。
社会構築主義が認めるように、コミュニケーションとはいつの時代においても人類の中心にあるものである。コミュニケーションをとりたいという自然の欲求は、上手に利用することができれば学習を進めるための強い力となりうる。
 
5.3 The content of learning: Curricular objectives
カリキュラムの目標と授業での実践は、テストで測られる構成概念を理解し、共有している必要がある。
カリキュラムでは、skillscompetencesのような高次の結果を特定する必要があるが、実際には意図された結果ではなく、学習のインプットに関する詳細が含まれる。そこでは学習の内容や、どのように提示するべきなのか、また、望ましい結果を出すためには教師はどのようなことをするべきなのかなどが定義されている。
自然習得のコンテクストにおいても、もちろん学習は問題なく行われる。しかし、正式な学習には組織が必要だとすれば、他のものよりもなんらかの効果がある結果を特定することは、依然として価値があるものである。
English Profile (www.englishprofile.org) は、膨大なコーパスのデータから英語の語彙や文法などの情報を提供している。合理的な仮定としては、これを参考にしているカリキュラムは、参考にしていないカリキュラムに比べてより良い結果を出す可能性が高い。このようなデータは、学習者が何らかの要素を学習する準備ができているかを特定するのに役立つ。さらに、European Language Portfolioのような明示的な用語で提示されることによって学習者が自分の進歩状況をメタ認知することをサポートする。
理想的には、以下の2つがカリキュラムの目標と連動することが望まれる。
Learning outcome: 目標、メタ認知の理解に関するもの。
Acquisition outcome: 高次のコミュニケーション能力における認知の発展を含む習得に関するもの。